ぎふ花と緑

市橋ローズナーセリー

市橋ローズナーセリー
市橋滋利さん

「バラの世界は音楽に似てる」奏でたい1輪に思いを込めて

①バラが気持ちよく育つ環境づくり

「子どものころから秋になったら、田んぼの横にバラが咲き誇る光景があたりまえでした。大きくなったら親を継いで、自分もバラ農家になるんだろうな、となんとなく感じていましたね」。
バラの苗や切花生産のさかんな瑞穂市で、バラ切花農家として「市橋ローズナーセリー」を経営する市橋滋利さん。温室6棟、栽培面積約8000平方メートルで、品種は約20種類。
岐阜県のバラ切花農家としては、最大規模といえます。温室の中では、赤、オレンジ、黄色、白、ピンクの花びらが少し顔を出したつぼみたちが、太陽に向かって元気にまっすぐ伸びています。

「バラは温室で1年中育て、出荷しています。人が気持ちいいなと感じるくらいが、バラの生育にもちょうどいい環境。だからできるだけ1年中春の気候に近づけるため、温度や湿度の管理が大切です。『バラをつくる』というよりは、『バラに適した環境をつくる』という感覚ですね」。
夏や冬は、バラの生育が弱まってしまいます。夏の日中の温室は窓を開けても40℃、閉め切れば50~60℃になることもあるとか!
「夏の暑さはこたえます。作業は早朝や夕方しかできません。マンゴーが育っちゃうくらい暑いんですよ」と笑いながら話す市橋さん。なんとご自身の好きなマンゴーを、本当に温室の中で育てているそうです。このまま温暖化が進めば、この地域でのバラ生産が難しくなるかもしれません。
「もっとシビアに考えなければいけない事態だと思います。私は、この場所が好き。岐阜のまちが好きです。ここの風土が育てたバラを、大切に残していきたい」。


②名前には、作り手の思いと物語が詰まっている
市橋さんには、とても大切で自慢のオリジナル品種があります。名前は「イボンヌ・ロリオ」と「ジャンヌ・ロリオ」。前者はピアニスト、後者はその妹で、楽器「オンド・マルトノ」奏者の名から取りました。そしてジャンヌ・ロリオは、大学時代に出会った市橋さんの妻で楽器「オンド・マルトノ」奏者、市橋若菜さんの師匠だといいます。
「香りをかいでいたら、『イボンヌっぽいな』『ジャンヌっぽいな』と思って。しかもこの2品種は14年前、私の祖父の葬式の日に、同時に出てきたんです。何か感じてしまいますよね」大人びた濃いピンク色のイボンヌ・ロリオ、洗練された淡いピンクのジャンヌ・ロリオ。2つに共通する特徴は、八重咲きの柔らかい造形と、しっかりと感じる香り。上品さ、あたたかさ、やさしさ。顔を近づけると、ふんわりとした花びらが頬に触れ、不思議な安堵感に包まれました。

「バラは名前で楽しむのもおもしろいんですよ。『ゴールドラッシュ』『イリオス』『サムライ』…。それぞれに物語があって、作った人の思いが詰まっているんです」。
バラは色や形、香りなど実に種類が豊富。品種改良が進められ、世界には実に数万種あるともいわれています。新しく生まれた品種に、それぞれの思いが込められた名前が付けられます。市橋さんは、現代の社会でさかんに叫ばれる「多様性」のすばらしさ、おもしろさが、バラの世界ではすでに体現してくれているといいます。
「必ずあなたが好きなバラが現れます。自分が本当に気に入る1本を探しに行くっていうのも、バラを楽しむ醍醐味の1つかな」。


③いつか叶えたい バラと音楽の融合

「バラって、音楽の世界観に似ていると思うんです。音楽でも、作者は曲に自分の思いを託すでしょう。また、その時、この空間で聞きたい曲ってありますよね。バラが1輪置かれているだけで、その空間の雰囲気を変えてくれる。同じような力が、バラと音楽にはある。そんな切り口があるかな、と思ったりしますね」。
大学でジャズに熱中していた市橋さん。当時は“週9”でステージに立っていましたが、今はバラに専念。自身の育てるバラたちが、奏でてきた音楽の世界と重なります。
「夢は、自分がつくったオリジナル品種で温室をいっぱいにすること。やっぱり歌手も、カバーより自作の曲を歌いたい。自分の思いが詰まったバラは、別格ですからね」。
いつか何らかの形で、“バラと音楽の融合”を実現させたい、と胸を躍らす市橋さん。1輪1輪、丁寧に栽培に向き合う毎日が、誰も見たことのない美しい世界に私たちを連れて行ってくれるかもしれません。

市橋ローズナーセリー
岐阜県瑞穂市田之上474

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